甘酸っぱいフルーツの思い出、千疋屋のスイーツ。

叶わない片思いをしていたことがありました。大学生の頃、ふとしたきっかけから仲良くなった男の子。なぜ片思いなのかと言えば、相手には高校生時代から付き合っている彼女がいたから。それでもアタックして奪い取ってしまうとか、とりあえず二股させてしまおうとか、そんなことは思いつきもしないほどにうぶだったわたし。田舎で地味に大人しく育っていて、男性経験や男友達は皆無。そんなわたしの初恋でした。

彼との思い出を引っ張り出すと、そこには「おいしかった食べ物」「初めてだったグルメ」がたくさんあふれてきます。田舎出身のわたしにはすべてが新鮮で、レストランのドアをくぐるたびにどきどきしていた。東京で生まれ育った彼はレストランに詳しく、家族で行ったり自分で調べた良いお店に連れて行ってくれました。

長く付き合っている相手がいると言っても、大学進学を期に遠距離恋愛になったそうで、彼女さんとはなかなか会えなかったよう。フットワーク軽くいろいろな付き合いに顔を出す人でした。わたしは彼に好意を持ちながら、彼女がいるなら踏み込む余地は無いと割り切っていたつもりでした。友達として仲良くできれば良いと。

そんなわたしに、どんな思惑があったのでしょう、彼はとても良くしてくれました。お互いサークルや部活に入っておらず、バイトも無く、授業以外は好き勝手に過ごせる時間がありました。彼は彼で、彼女さんと会えない寂しさがあったのでしょう。わたしの好意にも気付いていて、まんざらでもなかったのかもしれません。きれいに「友達として」でしたが、ふたりでたくさんの時間を過ごしました。

彼はおいしいものをたくさん知っていて、あちこち連れて行ってくれました。ひとつひとつのお店やシチュエーションやきっかけや、全てを覚えています。

それでも一番記憶に残っているのは、千疋屋のお持ち帰りデザート。カップに入った数々のパフェたちです。彼とべったりの日々をあきらめ、ひとりでも過ごしていかねばと決意しアルバイトを決めたときのこと。そのアルバイトの出勤初日。

千疋屋のカップスイーツを大量に持った彼が、初日の職場近くまできていました。「これ一緒に食べよう、バイトの前に」

何とも言えない切なさと寂しさがぐんぐんとこみ上げました。それでも、彼はわたしの「彼氏」ではないからと、気持ちを飲み込んで舐めた生クリームとカスタード。輝いて甘く匂いを残したフルーツたち。

今は別の相手とパートナーを組んで生活しているわたしですが、果物を食べるときは、彼を思い出さずにいられません。